アイスホッケーは非常にスピードが早く、ボディチェックが認められているスポーツのため、危険な反則行為が行なわれた場合には細かく規定されたルールに則ってペナルティが科されます。しかし、初心者にとってはアイスホッケーのペナルティは非常に複雑で分かりにくいと思います。そこでここからはアイスホッケーのペナルティの概要と退場時間が異なる種類、発生頻度の高い具体的なペナルティをお教えします。
アイスホッケーのペナルティとは?
アイスホッケーの試合観戦中にペナルティに遭遇することがあると思います。アイスホッケーのペナルティは、基本的に科されることで規定時間、退場しなければなりません。そのため試合の流れを変えるポイントとなることがあり、アイスホッケーの試合のなかで非常に大きな意味を持っているルールです。そこで今回は、アイスホッケーのペナルティについてお伝えします。
ペナルティの定義
ペナルティとは、アイスホッケーにおけるプレーヤーが犯した反則行為に対して科される罰則のことです。反則行為は国際競技規則にて定められ、日本国内の大会でも基本的にはその規則に則って試合・大会が行なわれます。(*1)
アイスホッケーではプレーヤー同士のボディチェックが認められており、実際試合のなかで発生する多くの反則がこのボディチェックやボディコンタクトといった体当たりに関するものとなっています。ボディチェック以外にはプレーヤーひとり1人が保有してパックをコントロールするためのスティックを、故意的に悪用することや、スポーツマンシップを逸脱した行為を行った場合等にも反則行為と見なされることがあります。
ちなみにペナルティの判断は基本的にレフェリーが規則に則って判断することになりますが、レフェリー1人が試合全てを観ることが難しく、パックから遠い場所で発生したコンタクトプレーについてはほとんどがフェンスにプレーヤーが当たった際の音で判断されます。また、こういったペナルティルールは、競技規則によって規定がなされているものの、小学生や中学生などのカテゴリにごとに細かくルールが異なり、女子では基本的にボディチェックを行うと反則行為と見なされます。
(*1:大会によって試合時間や延長戦の有無等のルールが異なります。)
ペナルティの種類
ペナルティの概要と実際の試合における判断基準について解説しました。ここからは具体的なペナルティの種類をご紹介します。
マイナーペナルティ
アイスホッケーの試合において最も発生頻度の高いペナルティです。マイナーペナルティは反則を犯した選手がペナルティボックスに入ることで遂行し、時間が経てば試合に復帰することができます。
マイナーペナルティは例えば、肘を使って相手の動きを妨害したと見なされる場合(エルボーイング)や、相手のことを掴んで動きを妨害する(ホールディング)などが該当します。試合のなかの反則行為では基本的にこのマイナーペナルティが科されることになります。
ダブルマイナーペナルティ
上述のマイナーペナルティに該当する反則行為を1プレーヤーが同時に2つ犯す場合もしくは、1反則行為がマイナーペナルティよりも重く1段階上のメジャーペナルティよりは軽いと判断された場合に4分間の退場が科されます。例えば、相手を殴るラッフィングという反則行為のみの場合でも、ラッフィングに加えてアンスポーツマンライクコンダクトというスポーツにおけるフェアプレーの精神に反した行為を行ったと見なされた場合でも退場時間は4分となります。
通常の試合では少し荒いプレーが行なわれたケースに該当し、ゴール前での競り合いから少し喧嘩が勃発したようなケースがこれに当たります。
メジャーペナルティ
相手プレーヤーに怪我を負わせた場合に科されるペナルティです。反則行為を行ったプレーヤーがいるチームはキルプレーを行うことになりますが、基本的に得点されることで終了するキルプレーがメジャーペナルティの場合には続行されることになります。そのため、ペナルティによる退場時間の5分間は得点の有無に関わらず不利なキルプレーを行わなければなりません。
マイナーペナルティに比べて試合のなかであまり遭遇する機会が少なく、特にフルフェイスのヘルメットの着用が義務付けられているジュニア部門や女子の試合では発生する機会が激減します。こういったペナルティは、他のスポーツに比べてアイスホッケーは怪我のリスクが高いと言われることから、スポーツとしてのアイスホッケーの危険性を少しでもすくなくする役割を果たしています。
ミスコンダクトペナルティ
通称「ミスコン」と言われるペナルティです。
ミスコンが取られるほとんどの場合、1つの反則行為だけではなく、2つ以上の反則行為が重なって行なわれることで該当します。さらに、上述の3種類のペナルティに対して、ミスコンは代替選手が試合に出場することが可能なためチーム自体がキルプレーにはなりませんが、ペナルティを科されたプレーヤーは復帰のタイミングが10分経過後の試合中断時点となります。そのため、実質10分以上の退場時間となります。
例えば、レフェリーのホイッスルによって試合が中断されているにも関わらず、シュートを打った場合や、反則行為自体がミスコンに該当しなくても複数回に渡って行なわれるなど目に余るような場合がこれに該当します。
筆者自身がよく見かけるケースとしては、試合が盛り上がるなかで、相手プレーヤーをひつこく挑発するようなプレーを行い、その後喧嘩となることでミスコンが科されるパターンです。結果的に両チームプレーヤーともペナルティボックスに入ることになりますが、挑発した側のプレーヤーのみが10分間の退場となります。
ゲームミスコンダクトペナルティ
「ゲームミスコン」と言われるペナルティで、上述の3種類のペナルティをしつこく行った場合や、相手チーム・観客席に対して悪意のある言葉を吐いた場合などに科されます。マイナーペナルティを科されているプレーヤーのいるチームのベンチ(監督・コーチ)がこのような行為を行った場合にも適用され、試合の残り時間は全て退場となります。試合に出場できないだけでなく、ベンチにいることも許されません。相手に対して大きな怪我を負わせた場合や、ルールから逸脱して暴れた場合などが該当します。
実際に2016年全日本学生選手権(インカレ)の準決勝の際には、ゲームミスコンによって片側の主力選手が退場処分となることで、実力的に格下であったチームが逆転勝利するというケースがありました。この試合では負傷した選手の出血量が非常に多かった点からゲームミスコンが適用され、結果的に大学ホッケーの引退をかけた大舞台での勝敗が左右されることとなりました。
マッチペナルティ
ゲームミスコンよりも悪質な行為をした場合に科されるペナルティです。観客に対しての暴言やスティックを振り回すなどの行為が該当することになります。筆者自身はレフェリーに対して暴言を吐いた場合などにマッペナルティを科された事例を見聞きしたことがあります。多くはプレー中のプレーヤー同士の争いよりも審判や観客に対して行なわれた無礼な行いがマッチペナルティとされることがほとんどです。
基本的には試合の残り時間を退場となり、ゲームミスコン同様にベンチにいることもできません。さらに、マッチペナルティの場合はその試合以外の試合の出場停止処分が科されます。
ペナルティが発生したら
ペナルティの種類について具体例とともに解説しましたが、実際に試合中に反則行為によってペナルティが科されるかどうかを観客はどのように判断すればよいのでしょうか。また、ペナルティが生じた際にどのような流れで遂行され、通常の試合に戻るのでしょうか。
審判が手を挙げる
試合のプレー中に反則行為が行なわれた場合には、レフェリーが手を上げペナルティの発生をサインします。
ペナルティをしたチームがパックを触るまで試合続行
レフェリーが手を挙げて反則行為を通知することでプレーヤーとベンチがペナルティの発生を認識し、反則行為を行ったチームのプレーヤーがパックに触るまで試合が続行されます。反則行為を行ったチームが少しでもパックに触るまでは試合が継続するため、ゴールキーパーは反則行為の発生を認知した時点でパックの状況から自身のチームが行った反則行為かどうかを確認し、相手チームの反則であった場合にはベンチまで戻ることでプレーヤー6人でのプレーを行うことが可能となります。
ペナルティを取られるとどうなる?
上述のような流れで試合中にペナルティが取られることになりますが、ペナルティを取られた選手やチームはどのようになるのでしょうか。
規定時間は退場
例えば、試合において発生頻度の高いマイナーペナルティに該当する反則行為が行なわれた場合は、反則行為を犯したプレーヤーがペナルティボックスに入り、規定時間退場することになります。
マイナーペナルティなどの比較的軽いペナルティでは代替選手の出場がルールで認められていないため、反則行為を行ったプレーヤー側のチームは退場時間分、人数の少ない状態で戦うことになります。
ペナルティショット
反則行為によっては、ゴールキーパー1人に対して相手のプレーヤー1人のみが氷上に上がり、得点を取り合うペナルティショットが行われるケースがあります。これは主に守備側サイドであるディフェンディングゾーン内にて相手に対して不正行為を行った場合に適用されることになります。
ペナルティショットによって得点が決まった際には、通常のレギュレーションタイム(60分間)内のゴールと同様の扱いを受けることになります。
ペナルティによって生じるキルプレーによって人数が減るデメリットが生じますが、規定時間を守り切ることで失点を防ぐことは可能です。しかし、ペナルティショットとなってしまうとゴールキーパーに確実に到達することができ、反則行為を行ったチームにとっては大きなリスクとなってしまいます。
主なペナルティ
ここまでペナルティに関する総合的な情報をお伝えしました。では、実際の試合中はどのようなペナルティが科されることが多いのでしょうか。以下より筆者の経験上、試合において発生頻度の高い反則行為を簡単にご紹介し、ゴールキーパーに関する特別ルールについても言及します。
ボーディング
ボディチェックが認められているアイスホッケーですが、過度なボディチェックは禁止され、反則行為とされます。ボーディングは、相手プレーヤーを激しくフェンスに衝突させるプレーが該当し、多くはフェンス衝突時の音で判断されます。プレーによっては、審判の視野から外れていたばかりに倒したプレーヤーが何もしていなくても取られてしまうことがあります。
ディレイ・オブ・ザ・ゲーム
試合進行を遅らせる行為を行った場合に該当するペナルティです。この行為が故意的・意図的に行なわれたかどうかに関わらずマイナーペナルティが科されます。
例えば、スケートリンクのフェンスはスケートリンクによってはサイドが設置されていないことがあり、こういった場合にディフェンディングゾーンからパックをブレイクアウトする際にフェンス外にパックが出てしまったケースでも、パックを放ったプレーヤーが意図的でなくても科される可能性があります。ほかにもフェンス際での相手プレーヤーとの競り合いにおいて、時間的有利を得るためなどの理由によってパックを意図的に隠すなどの行為を行った場合も、試合進行に影響を及ぼしたとしてペナルティが科されます。
ホールディング
自身の腕や足などを使う、もしくは何か他の方法を用いて相手選手の動きを妨害する反則行為です。
インターフェアランス
パックを保持していないプレーヤーに対して過度の妨害を行うことです。アイスホッケーにおいては基本的にパックに対してプレーしていた場合にはペナルティが科されることはありません。これはスティックを使用した反則行為の際も同様で、パックを奪い返すためにパックに向かってスティックを出したとみなされる場合には、相手プレーヤーが転んでも反則行為とはなりません。
インターフェアランスは例えば、アイシングとなりそうなパックがアタッキングゾーンから放られた際に、アイシングとさせるために攻撃側である相手プレーヤーの前に入り込むことで動きを妨害することや、フェイスオフ直後の相手プレーヤーの動きを止めることなどが該当します。
ペナルティを理解して、アイスホッケー観戦をさらに盛り上げましょう
他のスポーツに比べてスピードが早く、激しいアイスホッケーは、ボディチェックに関するルールが細かく規定されており、反則行為を行うことで試合の流れを左右するポイントとなる可能性が高いです。さらに場合によってはレフェリーによって危険と判断されることで、その試合自体から退場しなければならなくなるケースがあります。
試合観戦前にペナルティについてきちんと理解して、アイスホッケー観戦の際に役立ててみましょう。