北米を中心に人気のアイスホッケーは、アメフトやラグビー、ボクシングと並んで怪我が多いスポーツとして有名です。今回はこのアイスホッケーについてなぜ怪我が多く危険性の高いものと言われているのか、試合中に喧嘩が勃発しても審判が乱闘を止めない場面も少なくなく、これはなぜなのか、といったアイスホッケー特有の現象について解説します。
アイスホッケーは怪我が多い?
北米で人気のあるアイスホッケーは日本ではまだまだマイナースポーツで、あまり浸透度が高くないのが現状です。このアイスホッケーは氷上の格闘技と言われる非常に激しいスポーツで試合中の喧嘩も認められています。こういった激しさ故、アメフトやラグビーなど体当たりの多いスポーツと比較してもアイスホッケーは怪我が多いと言われています。
アイスホッケーの危険性が高いワケ
アイスホッケーは、怪我の危険性が高く、世界最高峰のアイスホッケーリーグNHLのプレーヤーは前歯がない選手も多く、前歯がないことが勲章のようにもなっています。
では、なぜアイスホッケーは他スポーツよりも危険性が高いと言われるのでしょうか。危険性の高い要因3点お伝えします。
スピード
まずはアイスホッケーにおけるスピードがあります。アイスホッケーは氷上をスケートを履いて行なわれます。スケートは陸上に比べて非常にスピードが早く、それに伴って相手やフェンスとの接触による衝撃が増します。
そのため必然的に怪我のリスクが向上してしまいます。
基本的にボディチェックが可能なスポーツ
2点目としては、アイスホッケーではルールによってボディチェックが認められていることがあります。アイスホッケーにおいてはパックを取り合うときに相手プレーヤーに対してボディチェックとして体当たりが認められます。これは競技規則に細かくルールが設定されており、ルールを犯した際には反則としてペナルティが科される仕組みですが、試合中に不慮の事態が起こる可能性があります。
1点目のスピードを加味するとより危険性の高さが伺えます。
ファイティングとは
アイスホッケーは、スピードと激しいボディコンタクトゆえに防具を付けているにも関わらず危険性が高いスポーツとなっています。危険性が高いことに加えてアイスホッケーでは、試合中に喧嘩や乱闘が勃発することが少なくありません。喧嘩についてはファイティングと言われ、審判がこの乱闘を止めることもなく実質的に認可されているように見えますが、一体どういうことなのでしょうか。
ファイティングルール
ファイティングルールとは、名前の通り喧嘩のためのルールです。アイスホッケーでは試合中の喧嘩が認められ、試合の醍醐味のひとつとなっています。審判が観ている前で行う試合中の殴り合いですが、ルールに則って行うことが規定されており、このルールのことをファイティングルールと言います。
NHLの試合では比較的よく起こる光景で、喧嘩は2プレーヤーで行なわれることになります。両者ともヘルメットとグローブを脱ぎ、取っ組み合いが始まって危険な状態になったところでレフェリーから止めが入ります。レフェリーの止めに入った際にも応じず、殴り続けたプレーヤーに対しては重いペナルティが科されることになります。また、喧嘩に対して初めに加担した3人目のプレーヤーについても重い反則が科されます。
スポーツの一部
アイスホッケーで喧嘩が認められているといっても、喧嘩をしたプレーヤーにはペナルティが科され、喧嘩の後に両者ともペナルティボックスにてペナルティを遂行することになります。しかし、アイスホッケーの試合においては魅力のひとつとして実質認められ、試合を盛り上げたりチームの士気を高めるためなどのためにも行なわれます。観客も喧嘩によって非常に盛り上がり、スケートリンク全体を活気づける効果があります。
さらに、プレーヤーの怒りを試合途中で喧嘩によって吐き出させることでプレー中の更に危険な行為を防ぐ役割も果たしています。こういったファイティングは文化として現代まで継承されたアイスホッケーの魅力のひとつです。
エンフォーサーとは
ファイティングがしばしばアイスホッケーの試合で行なわれることで、チームのなかにはエンフォーサーという乱闘要員がいるところも少なくありません。これは、ファイティングがただの喧嘩ではなくチームの中心選手を守るために行なわれるためです。
チームは戦略として、喧嘩はエンフォーサーに担当させます。チームのために自身の身を挺してファイティングを行うことになります。
アイスホッケーにおける怪我
ここまで、アイスホッケーのファイティングルールについて解説しました。スポーツを盛り上げる役割を果たすファイティングは、アイスホッケーの貴重な魅力のひとつですが、怪我の危険性も潜んでいます。そこでここからはアイスホッケーの怪我に関して解説します。
怪我が起こりうるケース
実際にアイスホッケーのプレー中に怪我が起こり得るケースにはどのような場合があるのでしょうか。主に2パターンをお教えします。
パックが当たる
アイスホッケーではパックと言われるものをゴールに入れることで得点が生まれます。このパックはゴム製で固く、さらにシュートなどを打つ際に氷上特有のスピードが加わるため非常に危険度が増します。
パックに当たっての怪我は練習中でも起こりうる可能性があり、特に男子の大学生以上のプレイヤーは顔の半分がむき出しとなっているヘルメットを着用していることが多いため危険度が増します。実際に筆者も練習中に顔にシュートが当たったことで何針も縫うことになった場面に遭遇しました。また、アジアリーグのチームでは練習中のシュートによって失明した話を聞いたこともあります。さらに、顔だけでなく首に当たった場合には命を落とす危険性もあります。
ボディコンタクトプレーによる負傷
シュートによって負傷する危険のほかに、フェンス際でよく行なわれるボディチェックによって負傷する危険があります。実際、反則行為に関するルールの多くはフェンス際でのボディチェックによって適用されることが多くなっています。
筆者が経験した例としては、フェンス際にあるパックを取りに行ったときに、フェンスを正面にして後ろから相手プレーヤーに押されたことで、首を折って寝たきりになってしまったケースに遭遇しました。コンタクトプレーは、アイスホッケーの激しさを表す特徴としてファンの醍醐味ですが、怪我の危険が高い理由のひとつです。
実際に多い怪我
実際にアイスホッケーのプレー中発生することが多い怪我を具体的にご紹介します。
脳震盪
近年、危険性が指摘されている怪我です。脳震盪は頭に強い衝撃が加わることで起こる、意識障害や記憶障害のことを言います。アイスホッケーに限らず、アメフトやラグビー、ボクシングなどのコンタクトプレーが多いスポーツでの発生率が高く、意識障害がなくても吐き気や目眩、頭痛などの症状が現れます。強打した直後から意識障害が5分以上続く場合は病院に搬送する必要があり、重度の脳震盪の場合には数ヶ月運動ができなくなることもあります。
脳震盪は繰り返すことで「慢性外傷性脳症」という脳症をきたす可能性があり、将来的な危険性があります。慢性外傷性脳症はアルツハイマー等との区別がつきにくい病気で死後にしか分からないものですが、脳震盪を原因として起こる病気です。
自身の経験上、フェンス際のコンタクトプレーや、プレー中の衝突が起こりうる可能性として考えられます。特に中学生カテゴリにおいてはプレーヤーごとのサイズ差や力の差がたった2歳差でも大きく異なり、女子が混ざってプレーしているチームも少なくないため発生の確率が高まります。
骨折
衝撃によって脳に障害が起こる可能性に加えて、骨折するリスクもあります。例えば、シュートが当たることや氷上での転倒、コンタクトプレーによってフェンスに激突することでも起こります。全身を防具によって防護していても、体の後ろ側は基本的に守られておらず、シュートが不意に当たることで簡単に骨折してしまいます。
特にディフェンディングゾーンでは相手のシュートに対して、ゴールから守る目的でシュートブロックを行うことがあり、下手なところに当たることで思わぬ怪我をする可能性があります。
プレーヤーだけでなく、観客も怪我リスクがある
ここまではプレーヤーのプレー中の怪我リスクをお伝えしてきましたが、アイスホッケーは観戦中に怪我をする危険性も潜んでいます。
アイスホッケーのスピードは、プレイヤーだけでなくパックについても同様です。そのため、1プレーごとにパックに対して衝撃が加わるとフェンス外にパックが出るときの勢いも凄まじいものとなります。そのため、観客席にパックが飛び込むことも少なくなく、試合のパックを追っていないと観客でも骨折などの怪我を負う可能性があります。
アイスホッケーの怪我の危険性を理解したうえで、乱闘も含めた試合を楽しみましょう。
アイスホッケーのファイティングルールや怪我のリスクについて解説しました。ファイティングはただの喧嘩ではなくアイスホッケーの試合の一部として重要な役割を果たしており、試合の戦略のひとつとして行なわれることもあります。
スピードが早いうえにコンタクトプレーの多いアイスホッケーは、プレー中の怪我のリスクが非常に高いです。防具を全身に付けていても、怪我のリスクは変わりません。このようなアイスホッケーの怪我のリスクを加味したうえで、試合観戦を楽しみましょう。